シュミット 

『…あー、久しぶりだな。今回はその、何だ。ヨーロッパ大会の日程が決まったのを、知っているか?ドイツに行きたいと行っていただろう。イタリアやフランスにも私とミハエルの家の別荘があるから、大会を見学しながらヨーロッパ観光とか、どうだろうと思って、だな。旅費は気にしなくて構わんぞ、こちらが招待するのだからな。…来たいのなら、折り返し電話を貰えるか。じゃあな』

そこで留守電は切られた。…いやいやいや。
後ろでめっちゃニヤニヤしているお母さんが居るのが見なくても解った。というか、帰ってきたときから随分にこやかだなあと思ったらコレだ。何と恥ずかしい。

「行くの?お母さん達付いていけないけど」
「え、や、だってお金…」
「あら、良いところの坊ちゃんなんでしょう。払ってもらいなさいよ」
「えー…」

良いのそれで。そう思ったけれど、確かにそうだ。払ってくれるなら行ってみたい。しかし良いのか本当に、娘を見ず知らずの男の所に送り出して良いのかお母さん。

「WGPの女の子たちも行くのよね?そういうの楽しいだろうから、行ってきなさいよ」
「え、あ。そっか」
「?なあに」
「ううん。…行って良いなら。行ってくる」

ニッコリお母さんは笑って応えた。
そうか、そう言えばそうだ。自分一人が招待されるわけ、ないじゃないか。そうだそうだ。なら良いや。
そう思ったら楽しみで笑顔になった。凄い、楽しみだ。

「じゃあお返事しときなさいよー。…誰からの電話か、解ってるわよね?」
「ああうん大丈夫。笑って返事しとく。名前と誰宛かくらい言っとけって」
「そうねえ。お母さんも最初聞いたとき大事な所抜けてて、笑っちゃった」
「あはは」

笑いながら電話帳を引っ張り出してきた。一応聞いておいて良かった。
あ、でも時差のことも考えて電話をしなければ。あと国際電話だからええと、何をしなければいけなかったんだっけ。
そうやって色々面倒くさいことをして、電話をかける。自分の名前を告げて、まずは普通に挨拶を交わす。

「久しぶりー。元気そうだね。ところで、うちはアンタの家みたいに自分専用の電話とか無いんで、キチンと誰宛かとか自分の名前とか言わないと解らないよ」

そう笑いながら言うと、軽く慌てるシュミットが更におかしくて笑ってしまった。


 11/09/16
 ちなみに実際行ってみると招待されてるのはヒロインだけです。お約束。
 ドイツメンバーは居るときもありますが基本シュミットが対応してヒロイン独占するんじゃないですかね。
 どうでも良いですが、電話のような場合シュミットは一人称が私になると思います。あと大人との会話のとき。
 気を許せる場所と時の場合は俺。基本的になんちゃって貴族な気がします。






 ミハエル 

「来ちゃった」

そう言ってミハエルはの前に現れた。大学の、食堂で。
食べていたうどんが箸からこぼれた。

「日本の冬はドイツよりも暖かくて良いね。あ、向かい側良い?ていうか、って一人で食べてるの?今日たまたま一人なだけ?」
「……いや、それよりも色々先に聞いて良い?」
「ん?良いよ?」

答えも聞かずさも当たり前のように向かい側に座り、随分身長が伸びたミハエルは昔のように自分中心に話を進めた。
いやいやいや。とりあえず色々おかしい。

「…ミハエル、で良いよね?」
「うんそう。え、もしかして解らなかった?」
「いや、解るよ。あんまり変わってないけど、本当にそうか解らなかったから。…何で行き成り日本に来てるの?」
「来たかったから」
「いやだから何で?」
「んー…に逢いたかったから?」
「答えになってない」
「なってるじゃない」
「だからっておいそれと来れる距離じゃないでしょう」
「やだなあ。僕をそこら辺の一般人と一緒にしないでよ」

ああ、ミハエルだわ。この対応は完璧にミハエルだ。何かちょっとむかつくけど、確かに彼の財力ならこの程度の距離はひとっ飛びだろう。
しかしこの年になってもこうなのか彼は。頭が痛くなってきた。

「電話も手紙も良いけどさ、やっぱり逢いたいから、来ちゃった」

WGPのときよりも綺麗で格好良い顔立ちになったというのに、昔と変わらない笑顔でミハエルはそう言った。
頭が痛くなってきたことなんて吹っ飛んだし、伸びかけのうどんがまだ手元に残っていることも頭から吹っ飛んだ。


 11/09/28
 ミハエルは来たくなったら来ると思います。






 ブレット 

、元気か?
やっとこの生活にも慣れてきた。日本製の宇宙服は着心地も良くて吸収性バツグンでこっちでは高評価だ。
あと日本の宇宙食も凄いな。とても助かってる。
…うるさいぞ外野!こういうのは苦手なんだ。彼女が日本人なんだからしょうがないだろうが。
あー…悪い。
とりあえず心配はないし、ミッションも順調だ。帰国を待っていてほしい。
愛してる。浮気はするなよ』

そうして外野がピューピュー言ってる中、ブレットのちょっとした叫び声が途中まで聞こえてブチッとそのビデオは切れた。
は笑ってもう一度そのビデオを最初から再生する。ああ、宇宙飛行士になった彼は空の旅が楽しそうだ。
愛してると言われた所まで来て、は「私も」と、声に出して答えていた。

ブレットが帰ってきたら同じことを言ってあげなければと、思って無事に帰ってくるように祈った。


 11/10/30






 ユーリ 

四季折々の絵葉書や写真を、ただ一人のために送っていた時期がある。

その代わりその相手からは、自国の絵葉書や写真を送ってもらっていた。時折、自分の国の物を送ってもらったりもした。
少ししてからロシア語を勉強したのか、拙いながらも挨拶文を書いてくれる彼女に対して更に好感が持てた。

何処かに旅行に行く際には必ず絵葉書なんかを買った。日本の物にも随分興味を持つようになった。無駄に日本の知識だけが増えていく。
また日本に行きたいと思いつつ、私生活は忙しかった。それでも彼女へ葉書は出し続けていた。
けれども年を取ると共に、いつの間にかその習慣はなくなってしまった。子どもながらに真剣に想っていたのに、葉書が来なくなってもほんの寂しい気持ちしか起きなかった。そういうものなのかもしれないと、自己完結させた。

日本からの絵葉書はとても綺麗だった。桜の絵葉書が、ユーリの一番好みな物だった。毎年春には桜の絵葉書が送られてきていた。日本特有の、綺麗な花。白かったりピンクだったり、写真なのにとても幻想的で儚かった。一度、日本に居たときだけ本物を見たが、本当に綺麗だったのを思い出す。写真も綺麗だが、やっぱり実物はもっと綺麗だった。もう一度、…できれば彼女ともう一度、見てみたいかもしれない。ユーリは当時好いていた彼女からの絵葉書を見ながらそんなことを思う。

「ユーリ、掃除してるはずなのに何見てるの」
「ん?君からの絵葉書だけど?」
「…はっ!?」

掃除を手伝ってもらっていたから声をかけられる。質問に答えたら凄い勢いで、はユーリの手から絵葉書をひったくろうとした。

「あ、駄目だよ。折れちゃうじゃないか」
「ちょちょちょ!!ちょっと待った!何それ何でまだ持ってるの!?捨ててよ要らないでしょ!!」
「何ではこっちの台詞だよ。捨てるわけないじゃないか勿体ない。要らないものじゃないよ」
「明らかに要らないわよ!捨ててよそんなの!」
「嫌だって。こういうのこそ取っておくべきものでしょ。何でそんなに嫌がるかなあ」
「だ、だって…っ」

字もロシア語も下手だし…などと小声で彼女は漏らす。…え、そんなこと?

「そりゃ、小学生から中学生頃だよコレ」
「解ってるけど嫌なものは嫌なのー!捨ててよ本当!絵葉書が欲しいなら買ってあげるから!」
「違うって、君から送られてきた絵葉書だから捨てないの」
「…送った本人が居るんだから良いじゃないの!」
「意味が違ってくるんだって。どうせ君も僕の下手くそな日本語が書いてある絵葉書取ってあるんでしょ?」
「………っ」

そうやって言いくるめて、結局ユーリはその絵葉書をまた仕舞った。日本が春になるころ、彼女と一緒に桜を見に行こうかと、思いながら。


 11/11/11
 短編読まれてるともっと解るかもしれません。





 ジム 

ああ、やっぱり好きだったんだ。そう思った。

まさかと思って、この間離れた。住所を聞けば良かったとか、電話番号を聞けば良かったとか、そんなこと思ったりもしたけれど、今このときだけ、ちょっと自分が興味を持ったから気になってるだけだろうと思ってその気持ちに蓋をしていた。
自分が、遠い国日本の女の子を好きになるなんて、そんなまさかと思ったのだ。
だってまさか。本当にまさかの話だ。
そんなことあり得るのだろうか。オーストラリアをアメリカだと思っていたような女の子に、自分が惚れてしまうなんて。
今は正直そんなことどうでも良かったけれど、自分の気持ち的にはあまり良くなかった。
信じられなかった。自分のことなのに、本当に彼女のことが好きなのか信じられなかったのだ。何かこう、自分の周りに居ないようなタイプだったからじゃないだろうか。フィルター補正がかかってこう、恋しちゃったんじゃないだろうか。

離れてる間そんなことばっかり考えていたのだが、ジムはそんなこと考えてる時点で結構惚れてることには気付いていなかった。
その後また再会して、ちょっとだけ綺麗になってるように見えたと逢って、ジムは顔を真っ赤にした。

「どーしたのジム。お腹痛いの?」
「ち、違うキニ!」
「そう?」
「ぅ、ぁ、その。っは、綺麗になったキニ!」
「…へっ!?」





更にその後の話(未来夢)↓

「あー、そんなジムも居たねえ」
「WGPのときは本当、ジムは笑ったキニ」
「おおおおお前等に言われたくないカヤ!」

ジムは酒を飲んでるせいか顔が真っ赤だった。その真っ赤な顔をシナモンたちにからかわれたのである。世界グランプリ中、の前で真っ赤になって綺麗だなどと叫んだことを。
白人なのだから赤くなるのはしょっちゅうだが、ジムは本当に真っ赤になる。酒を飲んでも、恥ずかしくても。
グランプリに一緒に出てた面子はもう慣れたものだった。

「まあまあ、怒るともっと顔が赤くなるゾナモシ」
「だーれーのせいカヤ!」
「アッハッハ」

べろんべろんに皆酔っ払っていた。それでもジムをからかうのは皆忘れない。
一年前の結婚式当日にの花嫁姿を見たジムが、やっぱり顔を赤くして綺麗だと叫んだことを今度は大きな声で喋り始めるのだった。


 11/11/11





 ワルデガルド 

恋をしました。の続編です。


は日本で、ワルデガルドはノルウェーのオスロ。
日本人からしたら、場所すら曖昧な、自分の出身国。ワルデガルドは実際日本に行ってレースをしたからか、日本のことにはそこそこ精通しているし日本語も必死に覚えて日常会話なら何とかなる。
WGPが終わってしまうと、何の接点も、なくなってしまう。

それなのに、日本のから手紙が届いたときにはレースとは違う緊張感でいっぱいになった。ドキドキと胸は動くし、別に暑くもないのに手に汗をかき始める。
WGPが終わる直前に、確かに住所を聞かれたけれど。
カクカクしているけれど、きっちりと住所や名前が書かれている言語は、ノルウェー語だった。

(渡したメモは、ノルウェー語で書いた、し。でも、)

確か英語でも書いた記憶がある。ノルウェー語は全く解らないと悩んでいたからだ。日本語では流石に書けなかったけれど。
ちょっとだけ、ジーンとしてしまった。の住所が英語な分、こちらの住所はきちんと渡したメモ通りに書いてくれたということだろう。全部英語で、書くことだってできただろうに。
そこまで来てようやく中身を見ようと、自分の部屋へと急いだ。何故だか母親の前で開けるのは恥ずかしかったからだ。多分、女の子から送られたことすら解っていないかもしれないけれど。
部屋に入って封を開けようとしたら、失敗してしまった。いつもいつもこういう封をしているものは綺麗に開けられた試しがない。はさみかカッターで切れば良かったと、今更ながらに後悔した。手紙を開ける用のナイフだか何だかがあるらしいが、そんなお金持ちっぽい上に妙に手間がかかってかさばるようなものはワルデガルドの家には置いてなかった。ジャネットの家にはあるかもしれない。
開けた封筒の中身を全部出した。妙に厚みがあると思ったら、写真が数枚、入っていた。

「…猫…?こっちは犬?何だこれ…」

動物の写真ばかりだった。けれども2枚目を見た瞬間から、解ってしまった。

(全部、オッドアイの…)

自分と同じ、左右で色が違う動物たちばかりだった。犬と猫が数枚、全部オッドアイの写真。
ちょっとだけその写真の意図が解りかねて、放心していると手紙があることに気づいた。
開くと、先ず日本語で文が書かれていた。その後に、英語で文字が綴られている。
日本語の読み書きはあまり得意ではないが、全く解らないわけではない。1年間日本のナショナルスクールにいたせいか、多分英語よりも日本語のほうがまだ解る。あまり自信はないが、日本語の後に訳した英語を書いているらしかった。
別段長い文章ではない。寧ろ短い、メモのような数行の文。
それでも多分、頑張って英語を調べたんじゃないかと、思った。流石にノルウェー語は無理だったのだろう。それでも、何となくワルデガルドは嬉しくなった。
メモの内容を読みながら、更に嬉しくなっていく。細かいところは違うかもしれない、でも、の言いたいことは解った。

 ワルデガルドと同じ目の子たち!
 可愛いよね?
 ワルデガルドの目も、この子たちと同じでとても綺麗だと思ったんだよ!

やっぱり部屋で封を開けて良かったと、ワルデガルドは思った。こんな、くしゃくしゃの顔を母親に見られたら、情けなくてしょうがないからだ。
便箋を買いに行かなければと、思いながらも長い間その手紙と写真を何度も何度も、見返した。


 11/11/11





 J 

「タイムカプセル?」
「うん」

小学校卒業のときに、記念に埋めたタイムカプセルが掘り起こされた。10年後の自分に宛てた手紙が入っているものだった。
スッカリJ本人も忘れていたのだが、当時のクラスメイトや担任から連絡が来て取りに行った次第だった。皆で掘り起こして開けて、中を確認する。気恥ずかしいやらワクワクするやらでその気分だけでも楽しかった。当時どんなことを書いてこのタイムカプセルを埋めたのか全く覚えておらず、中を見るのが少なからず楽しみだった。

「良いねー。私の所ではそういうのやらなかったからなー」
「ね。埋めても10年覚えてる人がいないとやっぱり難しいしね」
「だよねー」

お互い土屋博士の仕事の手伝いの合間にコーヒーを飲みながら、笑いあった。大学卒業は無事に確定して、Jは土屋博士の所にそのまま就職する形になる。就職と言われると何だかなあとJ本人は思っているのだが(何せ家のようなものなので)、社員として扱うようになるから就職で構わないと博士は笑っていた。
20歳も過ぎて、成人式も済ませて、大人に…形式上はなれた。責任感とか色々足りない所はあるものの、世間一般で言えば大人と言える。
ミニ四駆の世界も相変わらず触れ合っていた。何せ博士の所に居候しているので切り離せるものでもないし、J自身離れる気にもならなかった。
当時の面々は別々の道を進んでいるものの、未だに連絡をよく取り合う。大学でその話をすると凄いと言われるのだが、それでも小学生の頃に比べれば会う回数なんて極端に減った。それでも友達を続けられているのは、皆の性格もあるのだろうがやはり当時密度の濃い生活をしていたせいかもしれない。嫌なこともたくさんあったけれど、楽しいことも嬉しいこともたくさん一緒に経験した仲間だった。友達と言うよりも仲間と言ったほうがしっくりくる。何せビクトリーズでまた集まろうぜ!と豪君はそう言って誘ってくるからだ。
姉のRは連絡はあるもののあまり顔は見ていない。本当に時々帰ってきてはふらりとまた出て行くのでまあ、顔が見れるだけまだ良いかななんて思うようになった。

こう考えると10年前とあんまり変わっていないようにも思う。それはそれで凄いことだと、Jは感慨深くなった。恵まれているとも、思う。ありがたいことだった。

「ねえJ君、タイムカプセルには何が入ってたの?」
「10年後の僕に、手紙」
「わっ、楽しいけど恥ずかしいやつだ」
「うん」

苦笑するしかなかった。全く持ってその通りだ。

「何が書いてあった?」
「えーと」

思い返して言おうかどうか少しだけ思案する。…いや普通に考えて恥ずかしい。

「……内緒」
「え、ここまで話振っといて?」
「うん」

恥ずかしいから、と付け足せば彼女は「えー」と言いながら文句を言う。…つい最近彼氏彼女という関係になったけれどあんまり変化がないのは、良いことなのだろうか悪いことなのだろうか。まあギクシャクするよりは良いのだろうけれど。
ちょっと困ったように微笑めば、彼女は少し不貞腐れながらも引いてくれた。コーヒーもう1杯淹れるから、それで我慢して?と言えば、この間貰ったお茶菓子も付けてくれれば良いと付け足してくるので、それで了承した。

新しくコーヒーを二人分淹れながら、Jは手紙を思い返す。字も下手くそで、きちんとした文章でもない。当時のことを覚えていない分余計恥ずかしかった。
ただ、変わったことも変わらずにいることも、全部全部大事なことだと思い出させてくれた。
もしも過去の自分に手紙を書けるなら、今の近況を書けば喜んで安心してくれるのかな、と変なことを考えてJは笑った。



 ボクは大人になっていますか?
 ボクはまだミニ四駆をやっていますか?
 烈君、豪君、リョウ君、藤吉君たちとはまだ友達ですか?
 土屋博士の所にまだいますか?
 エンジニアや、ミニ四駆の仕事をしたいけれど、どうなっていますか?
 お姉ちゃんは元気ですか?

 僕はまだちゃんを好きでいますか?


 14/10/16


お題:負け戦


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