手段は言葉だけじゃないⅤ


「で?」
「…で?」
「昨日は揚羽とどうなったんだい?」
「………」

茶々に面と向かってそう言われて、逃げられないとは思った。視線が思わず泳ぐ。…どうしよう。茶々にこうやって向き合って逃げられるとは思えない。しかし白状するのも恥ずかしい。いや、でも昨日のあの逃げるように部屋に向かった自分達を見られたのだから、茶々たちも解っているはずじゃないのか。
解っているはず、だ。そう思って、それはそれで恥ずかしいとは初めて気付いた。何と言うことだ、もしかして全員に知られてるんじゃないのか。
そう考えたら思わず頬も赤くなる。逆効果だった。

「…ふーん?」
「え、いやいやいや何その反応は…」
「顔、赤いよ」
「いやいやいや、これはアレだよ、体温が急上昇したせいだよ」
「アンタ馬鹿かい」
「……」

流石に自分自身今の反応はどうかと思ったが、ハッキリ茶々に言葉にされて傷ついた。ああうん、でも確かに今の返し方は馬鹿だ。
解ってるくせに聞いてくる茶々は、意地悪だ。

「……解ってることを言うつもりは、ないよ…。恥ずかしいし」

最後は本当に小さく呟いた。言ったことすら恥ずかしい。
その言葉を聞いて茶々は少しだけ目元が和らいだ。ああ、良かった。昨日願った奇跡は起こったようだ。

「はああん?結局まとまったのかい。そりゃ良かった」
「………ああ、うん…ハイ。両想いでした…」

諦めて吐き出した。何て恥ずかしいのか。ああでも、こうやって報告できるのは嬉しい、かもしれない。やっと実感が湧いてきた気がする。昨日、揚羽に抱きしめられたのだ。囁かれて、耳元にまだ熱が残ってるかのように思う。揚羽の腕の中は、広かった。自分よりも広くて、温かかった。
あ、うん、嬉しい。幸せなんだ、今。胸がいっぱいってこういうことか。満足感が充満していて、何だか恥ずかしくてムズ痒い。でも幸せなんだ。
茶々はの様子を見て安心した。目元だけでなく、口元もいつも以上に緩んだ。何て可愛いのだろうか。揚羽にはちょっとだけ勿体無いかもしれない。でも、同じ女のが幸せになってくれたのは嬉しかった。元より、船の仲間は幸せになってほしい。

「良かったねえ」
「…うん…うん。私も、良かったなあって、思う」
「そうさね」

二人して、笑い合った。少し離れた場所でその光景を見ていた座木の表情も、緩んでいた。