揚羽とが無事にくっ付いてから数日経って、茶々は首を傾げた。
「どうした茶々」
「いやねえ。…あの二人くっ付いたのに何で今までと全く変わらないのかね」
目線の先にはが居た。いつも通り、普段通りである。今この場には居ないが、揚羽もいつもと同じく飄々としている。
今までと比べて一緒に居る時間が長くなるかと思いきや、今までと全く同じような生活なのである。バタフライ一座の仲間で、タタラ軍の仲間。言っちゃ悪いがそれだけの関係のように見える。普通もっと年頃の男女がくっ付けば、少なからず逢う時間が増えたり相手の肩や腰に手が伸びたって構いやしないだろうに。茶々は不思議でしょうがなかった。イチャイチャしてないのである。自分達よりも二人きりで一緒に居る時間が短いだろう。
「どっちもそういう感じではないだろう」
「それにしたってねえ…。正直揚羽は手が速いと思ってたからビックリだよ」
「まあそれは確かに」
「お前らオレに聞こえるように言うんじゃねえよ」
「聞こえるように言ってるんだよ」
の方を向いていた茶々の後ろから、揚羽の通る声が聞こえて上半身だけそっちに捻った。仕事もあまりせずにこの船に乗っているのは、この揚羽だけではないだろうか。その分他の仕事が大きいし、顔が良いからまあ許せるのだけれど。茶々は一番が座木で、他は顔の良い男優先だ。
「…こっちにだって色々有るんだっつーの」
「それはそれは」
「オレの言うこと信じろ」
「まあくっ付いたからって無理矢理抱くことがないのは評価してるよ」
「どんだけだ」
思わず半目で睨んだ。自分の評価はいかほどのものなんだ。
「…まあでも、これはこっちの勝手なお節介だから、気にしなくて良いけど」
「誰が気にするか」
そう言って揚羽はその場から居なくなった。の所にでも行けば良いものを、船の中に戻って行ってしまう。茶々は何だかちょっとだけ心配になった。もしかして何かすれ違ってるんじゃないのだろうか。しかしこの二人の問題に自分が口を挟む立場ではない。けれどもが傷つくのだけは許せない。
全く面倒くさい二人だ。やっとくっ付いたかと思えば、その後の行動ですら自分達をヤキモキさせる。
「揚羽、何か怖がってないかい?」
「…そりゃ、怖いんじゃないか」
自分だって、茶々に初めて本気で触れた時は、勇気が必要だった。座木は昔を思い出してポツリと呟く。
その言葉を聞いて、茶々は意外そうな顔をする。まあでも、確かに自分だってそう言えばそうだ。少しだけ笑った。揚羽も中々人間らしいところがあるものだ。
揚羽の本心を解る人間が、本人以外いるはずもなかった。