絶望に一気に落とされるというのは、こういうことを言うのだろうか。
が最近考えてることは国のことと革命軍のことと、揚羽のことばかりだった。国も大事。革命も大事。でも今の感情は、揚羽にばかり取られている。揚羽に抱きしめられたときのことを思い出すと、胸が震えた。それくらい嬉しかったのだ。自分は女だったのだと再認識することになる。女として、幸せな瞬間だった。
けれども何を間違えたのだろうか。自分が何かしたのだろうか。揚羽に聞いても、多分答えてはくれないだろう。
揚羽は、その次の日から自分に極力近付かなくなった。
突き放すわけではない。返事をしないわけでもない。最低限話しはしてくれるし、目も見てくれる。笑ってくれる。
でも、余所余所しい感じがする。愛しいものを見る目で見つめてくるくせに、簡素な会話しかしない。揚羽から話しかけてくることは減った。自然と自分も話しかける回数が減ってくる。自分が、何かしただろうか。これなら前の片想いのままの方がまだ良かったかもしれない。片想いは片想いで、苦しかったけれど楽しかったからだ。
触れたのは一回きり。抱きしめられたのは、その時だけ。それでも、そのことを思い出せば自分の頬は熱くなるし、胸はいっぱいになった。何で自分があんな男に一喜一憂されないといけないのか。
(畜生惚れたもん負けか…!)
そこまで考えて、はムカムカしてきた。何で自分がこんなに悩んでる。自分が何かしたとは思えなかった。何で手のひら返したようにこんな扱いを受けるのか。寧ろこう、抱きしめろよ。手ぐらい繋げよ。もっとこう、…こう、男女が想い合ってるのだから、もっとイチャイチャしたってバチは当たらないんじゃないのだろうか。どうなんだ。やっぱ今の状況じゃ無理なのか。夫婦になりたいとは言わないけど、好き合ってるなら好き合ってるなりのことはしたかった。手を繋ぎたいとかキスしたいとか抱きしめられたいとか、何かとりあえず一緒に居たいとか思って何が悪い。自分は悪くない。寧ろこういうのが普通の一般的感情ではないだろうか。揚羽と自分の関係ちょっとどころか結構おかしいだろう。
は水平線を見つめる。何だかどうでも良くなってくるが、その場だけ良くなってもしょうがない。
茶々たちに相談するのことも考えたが、何と言うか恥ずかしい。そもそも一回揚羽と話をきちんとした方が良い気がする。自分だけこうやってウンウン唸っていてもしょうがない。…けれども。
(もし、もしも。拒絶でもされたら)
そうしたら、自分はどうしようか。どうなるだろう。そんなことになったら、…自分は、一体何を思って何を考え、どういう行動をするのだろうか。全く検討も付かない。泣きそうな気もするが、もしかしたら泣かないかもしれない。揚羽のことをぶん殴るような気はする。でも、好きだから殴れないかもしれない。
推量ばかりの考えだ。どちらにしろ絶望が襲うのだろう。それはとても、嫌だった。
(折角、一緒になれたのに)
嫌だった。揚羽に嫌われたくなかった。揚羽に、好いていてほしかった。もっと一緒に居たい。もっと、色んなことをしたい。一緒のものを共有したい。こんな関係なら、ならない方が良かった。だってこんなの、政略結婚した夫婦でもあるまいし。何でこんなよそよそしいのか。
好いた相手と一緒に居られるようになれたのに、何でこんな気持ちにならないといけないのか。
揚羽に好かれてる。そう解っても、こんな関係じゃ駄目だった。きちんと好かれたい。愛されたい。揚羽のことを、もっと知りたい。
片想いの方が楽しかった。でも良いわけではない。きちんと愛されていないなら、どっちにしろ一緒だった。こんな関係になっても、まだ悩ませる揚羽が憎たらしい。それでも、愛しくて堪らない。
潮風が目に染みて、の目にはちょっとだけ涙が溢れた。