君が好きⅡ


揚羽が先に部屋へ入って、後に続く。扉を背にして、は揚羽を見やる。今日もやっぱり、格好良かった。好きになった揚羽そのものだった。
先に口を開いたのは揚羽だった。

「…は、怒らないんだな」
「……?」
「茶々には、怒られた」
「どういうこと?」
「そのままだ」

二人きりになっても、は怒らなかった。
怒りはしなくても、が傷ついているのが解っていて揚羽はそう言う。拒絶されたのだから、当たり前だと思った。それでもこうやって付いてきてくれるのは、期待しても良いということだろう。
は更に解らないという顔をしていた。揚羽は気にせず続ける。

とそういう仲に、なってから、たくさん考えた。考えて考えて、をやっぱり傷付けると思った」
「…傷付けられたよ。もう、いっぱい。揚羽」

揚羽の言葉にはそう言う。言われて揚羽は少しだけ苦笑した。当たり前の言葉だと思う。
でも本当に嫌悪して言っているわけではないと解ったから、そのまま続けた。とりあえずは自分のこの気持ちを、伝えたかった。

「もっと、たくさん傷付けるかもしれない。汚したくなかった。本当は、何も言わずにそのままでいるつもりだったから」
「揚羽」
、お前が好きだ」

傷付けると、汚すと解っているのに、彼女の気持ちを垣間見た瞬間何も考えずに身体が動いてしまうくらい、好いてしまっていた。
酷く後悔した。を抱きしめたことも、想いを伝えたことも、全部全部、逢わなければ良かったのではないかと思うくらい、後悔していた。だから触らないようにしていた。でも離れたくはなかった。誰よりもワガママになるくらい、想っていた。
だからこそ、の腕を払ったことを何よりも馬鹿だと思ったんだ。

「オレはお前のことになると、途端に馬鹿になるらしい」
「……」

勝手に自分で思い込んで、の気持ちすらも無視して壁を作った。
挙句の果てに、手を振り払うなんて、してしまった。生きてきてあれほど後悔したことは今までなかった。拒絶して、弁解もせずに何て自分は馬鹿なのかと。自意識過剰だったと言われたら、そうだとしか頷けない。
自分は汚くて、を汚してしまうと思い込んでいたから。

「…揚羽、は」
「ああ」
「揚羽は、私と一緒に、いたくは、ない?」
「……いいや」

の顔を見ながら、揚羽はそのの表情は見てみぬ振りをした。本当は、直ぐに行動したいけれどが喋っているから、喋り終わるまでは、せめて我慢しないと。少しだけ冷静さが残っている頭の一部分で思った。

「一緒にいたいと、思ってる。好きだからだ。…でも、汚すと思ってた、から」
「…何で?揚羽と一緒にいて、何で、私が…汚れるの?」
「オレが、汚いから」
「……揚羽が汚いなら、私もだ」
「違う、お前は違うんだ」

自分とこうやって話しながら泣いているこんなにも綺麗な女が、汚いはずがなかった。
それに比べたら自分が、どれだけ汚れているか。奴隷時代も、血を被りすぎている今も、全部全部、汚れている。

「…じゃあ、違くても、良い。けど、別に、…汚れても、私は私だ、よ」

泣きながらは、そう言って揚羽に抱きついた。