は、やっぱり細かった。もしかしたらタタラより細いかもしれない。
こんなにも、細い。細いこの腕と身体で、自分を抱きしめてくる。揚羽は腕が勝手に動いて抱きしめ返そうとしていることに気づいた。
この間それで後悔した。ただの本能で動いて、その後、今までで一番後悔した。出逢ったことすらも、恨めしく思うほど後悔した。
自分に、覚悟も根性も、なかったからだ。
に抱きしめられたまま、揚羽はまた口を開く。には後悔してほしくなかったからだ。これから、生きていく上で。
「、オレは多分、お前の考えているような男とは違う。タタラたちが考えているよな男とも、違う。その気になればどんな汚れ役ですら請け負う。人殺しだって普通にできる。それがオレだ。どんだけ酷いことだってできるって、思ってる。でも、…お前に触るのは臆病だ」
そう揚羽が小さく言うとはピクリと動いた。小さい小さいその最後の呟きですら、は聞き取った。顔はずっと、揚羽の身体に埋めたままで。
「多分、そう良い生き方はしない。良い死に方も、しない。タタラたちが最後までやり遂げるのは見たいと思ってるが、その途中で何かがあっても、良いと思ってる。その『先』にあるものが、大切だからだ。だからタタラたちを優先させる」
自分の身体を抱くの腕が強張ったのに気づいたけれど、言葉は続いた。今言わないと、多分もうずっとに言わないで過ごすことになりそうだった。
タタラ軍の勢いは日増しに強くなり、革命の風はもう直ぐそこまで来ている。もう後悔したくなかった。どうせ傷つけるなら、今、自分自身で。
「あの日の夜はただ本能で動いてた。だから後悔したんだ。…どうせ汚れてて、良い死に方もしなそうな男と一緒にいたって、お前が辛いだけだろう」
「……」
言葉を言い終わるか終わらないか辺りで、揚羽は自分を抱きしめているの肩を抱いて、身体から少し離した。顔が、見たかったからかもしれない。
泣いている顔も、好きだと思えた。可愛くなくても好きになれた。泣き止ませたいと思うが泣いている原因は自分だ。どうしたら良いのかも解らず、無視して話を進めるしかなかった。
の細い両肩を掴み、顔を近づけた。口付けられたらどれだけ幸せか。泣き続けるの顔を見ながら揚羽は「それでも、」と口を開いた。
「好きだ、。勝手に暴走するくらい。…多分お前を幸せにしてやれない、それでも、一緒にいたい。……オレの、ワガママだ」
はずっと泣いていた。揚羽の言葉を聴きながら、ずっと。
触れている部分が熱かった。揚羽の手との肩が触れ合っているだけなのに、そこだけが妙に熱を持っていた。
は尚も泣きながら、それでも少しだけ目を細めて口を開いた。そのせいか更に涙が零れる。笑っているようにも見えたけれど、表情自体は無表情に見えた。
それすらも好きだと思えたのは、想ってしまった相手だからだろうか。
「……それを、決めるのは私だよ、揚羽…。揚羽が例え死んだって、後悔するか、幸せだったかを決めるのは、私だよ」
世界がぼやける中で、自分よりも随分小さくて細いが近づいて来て揚羽は目を閉じて、暗闇の中初めての感触を味わった。