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暗闇の中、大きな羽を広げて飛んでいる揚羽蝶が、蜘蛛の巣の近くを飛んでいた。



気付いたら、雁字搦めだった。
自分が揚羽だから、が蜘蛛。そう思ったのが随分昔に思えた。
いつの間にか彼女に落ちて、抜け出せない。結局飛び立つこともできなかった。に捕らわれて、そのまま。
自分から落ちていったようなものなのに、飛び立とうと必死になって、結局できなくて諦めた。そう言ったら語弊があるが、最終的にはに捕らわれたままだ。ずっとこのまま、に雁字搦めにされたまま。想いも、感情も。それでもこれからの人生だけは揚羽自身のものだったから、余計どうしたら良いのかも解らなかった。

を蜘蛛のようだと思った時点で手遅れだったのに、解っていながら気づかない振りをしていた。そのせいで自分もも振り回してしまったようなものだ。結局自分から彼女に引かれて落ちたのだから、無理に離れようとしたってそうそうできないに決まってる。自分の感情も、想いも、全て彼女に向かっているのだから、無理に考えを変えようとしたってできないに決まっていた。解っていたくせに、離れようとして自分自身が辛いだけの数日間だった。

やっぱり彼女が蜘蛛だった。
自分が揚羽だから、というだけじゃない。雁字搦めにして離しやしない。落ちただけで飛び立たせることなんてさせない。気づいたときには手遅れで、もがいたところで更に糸が絡まるだけだった。
恋慕も、情欲も、独占欲も、理性すら飛ばす衝動も、全て絡まって彼女の元。諦めた瞬間から、逆に全てを彼女の元へと置くことに決めた。

彼女が蜘蛛だ。蝶である自分が捕まって飛び立つことも、もうできない。
が蜘蛛で、自分が揚羽。



暗闇の中大きな羽を広げて飛んでいる揚羽蝶が、蜘蛛の巣の近くを飛んで、捕らわれた。
その蜘蛛も同じような色なのに、姿形はおろか動きも仕草も何もかもが違う。
揚羽蝶がふわふわ飛びながら、蜘蛛が作り出した巣に羽をとられて、そのまま飛び立てなくなってしまう。揚羽蝶が飛び立とうと努力しても、余計に糸が絡むだけだった。
蜘蛛が近づいて、更に糸が絡む。
揚羽蝶は最終的に諦めたのか動くことを止めて、更にその羽に糸が絡んでいった。

綺麗で大きな、美しい揚羽蝶が、蜘蛛に捕らえられた。