朝陽が入り込んで、揚羽は目を覚ました。
こんなにも眠り込んだのは久しぶりだと思いながら、腕の中に誰かがいるのに今更のように気づいた。
気づいて、柔らかく微笑む。少しだけ泣きたい気持ちで。
女を抱いたのはアロに続いて二人目だった。たったその程度しか回数がない。男に抱かれた回数のほうが多かった。
奴隷だったことに負い目は感じない。アロも奴隷だった。それでもとても綺麗な人だった。
奴隷じゃなかったらマダムたちにも会えなかった。多分、ともタタラとも会えなかった。だから今はそれで良かったと思える。
タタラを守るために男に抱かれるのも別に負い目にも何もならなかった。それは、自分の誇りになったからだ。タタラを泣かせたことにたいしては申し訳ないと思ったけれど、それが最善だと思えれば何でもやった。
何よりも誇りは高かった。自分自身は汚れていても。
だからこそ、に触れなかったのだけれど。
誇りしかなかった。この身体は、誇りだけ。汚れているのは解っていた。欲にも血にも塗れていて、を触るには汚すぎた。
そう思っていたのに、はそれでも良いと言って抱かれた。
『ねえ、じゃあ。そんなに言うならくっさいけど、貴方色に染めるくらい、抱いて』
奴隷時代のこともアロのことも全部話して、抱いた。一晩中、泣きながら。
泣きながらずっと、のことを抱いた。
***
『揚羽、…何か、いま…凄い、幸せ』
肩口に顔を埋めていた揚羽は、顔を上げてなくて良かったと思った。こんな顔、見せられるわけがない。
を抱いて良かったと思った。
を好きになって良かったと思った。
で良かったと思った。
揚羽は涙で濡れたままの顔で、の額や頬に口付けていく。愛しいと本当に、この行為をしたくなるらしい。
酷い顔なのは解っているが、の顔を見たくなった。
自分の顔を見ては泣きながら笑った。
『私と同じような顔してる…』
『…お前、自分の顔解ってるのかよ』
『泣きっぱなしでぐちゃぐちゃ』
『…その通りだ』
泣きながら、キスをした。
***
そうやって昨日の夜を思い出しながら、揚羽はから目線を外さなかった。
たた静かにを見ながら微笑んで、涙が溢れてきた。昨日とは違って、ただただ静かに涙がこみ上げる。
けれどもから目線は逸れなかったし、笑みも崩れなかった。
一筋の涙が目の横から流れて、シーツに吸い込まれていった。