揚羽蝶を想う


ある晴れた日の、空が高く綺麗な景色が残る中だった。
ひらりひらりと、揚羽蝶が飛んでいた。
綺麗な黄色と黒の兼ね合いが、芸術的なその蝶は、の目に止まる。

大振りで一輪咲きの花に止まり、蝶が羽を休めたのを見ながら、はその揚羽蝶を見つめ続けた。



揚羽という名を持ちながら、が思い浮かべた彼は綺麗な銀髪だった。
自分には持ち得ない色で、そこも惹かれる理由の一つだった。女にも負けるとも劣らないその美貌を引き立たせる要因でもあった。
髪の毛をばっさり切ったあとは、端整な顔立ちがとても目立つようになったけれど。
綺麗な顔立ちで女として舞台にも立っていたことがあったというのに、身体つきは紛れもなく男だった。アレでよく観客を騙せたものだと今でも思う。体格が良すぎるだろうと、抱かれながら思ったのも懐かしい。

あの人は葛藤しながら自分を抱いた。それが、抱かれながらよく解った。
生い立ちのせいなのは解っていたけれど、それ以上に多分、自分のことを必要以上に考えていたからだろうと、は考える。
彼は、自分で良いのかと何度も聞きながら、を抱いた。

初めて揚羽に抱かれたときのことを、は一生忘れない。
泣きながら抱いてくれた人。
身体を開いたことに、ありがとうとお礼を言った人だった。
多分、これから先、忘れることはない。忘れられない。

あの日揚羽が泣きながら抱いてくれたことを、一生忘れない。



蜘蛛だなんて、言っていたあの人。昔を懐かしむようになってから、その意味が解った。
本当に揚羽が蝶だったら、捕まえられたのかもしれないのに。
それでも、からしたら揚羽自身も蜘蛛のような比喩ができると、勝手に思っている。自分だって、彼に捕らわれてこんなにも離れられない。
そもそもそうやって捕らえることができるような人だったら、もっと良かったのに。
揚羽蝶でも、蜘蛛でもなかった人だった。

あの人は風だった。蝶のように舞いながら、生きた人だった。