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毎日のように、図書室に来る男の子が居る。

図書室に来る子っていうのは、大抵決まっている。読書が好きそうな子だったり、課題のための資料集めだったり、勉強のために来ていたり。
勉強しに来ている人は毎日のように来るけど、本を借りに来るわけじゃないから全く接点が無い。あ、今日も定位置に居るな。その程度の認識。本をよく借りに来る子は結構決まっている。続き物を全部読み終えたら来なくなるってことも結構あったりするけど。
コンスタントに、毎週毎週こうやって図書室に来て雑多に本を借りていく男の子は、そんなに居ないだろうなあ。
今日も本を借りに図書室に来た、背の高い綺麗な髪を携えている男の子。羨ましいほどに綺麗な髪の毛だった。顔も整っているし、背も高い。女子にもてるようなタイプだけれど、騒がれるのは嫌いなように思う。
貸し出しの際に見る彼の名前と学年を、気づいたら覚えてしまっていた。

1年生の、本庄鷹くん。

1年生とは思えない落ち着きっぷりだが、確かに今年の4月から見始めたように思う。しかも読む本のジャンルに全く偏りが見られない。新書も洋書も何でも手に取っていた。図書室に通うだけでも珍しいのに、雑多に何でも読むというのはそれ以上に珍しい。大抵は偏りや好みが出てくるが、あんまりそういうものが見受けられない。

(…あ、そんなことないや。確かこの間借りた作者の本は全部読んでたな)

まだ自分は読んだことない作者だ。今読んでいるシリーズを読み終えたら借りてみよう。彼が続けて読んでいる本はハズレが少ない。
図書委員の自分よりも彼の方が読書量が多い。何という体たらくと思うが、読書スピードはそんなに速くないのでしょうがないのかもしれない。

何故か彼は時間のある放課後ではなく、昼休み中に来る。放課後は直ぐに帰って読書でもしているのかもしれない。
いや、身長はあるから意外と部活動にでも励んでいるのだろうか?図書委員の仕事はそんなに多くないので、自然と人間観察をしてしまう。筋骨隆々という風に見えないから、実際どうなのだろうか。でもまあ、だらしない体格ではないのは解る。
身長を生かすスポーツ…バスケという感じがしないから、バレーボール辺りだろうか。意外とバトミントン?卓球だったら中々絵面的にちょっと面白い。しかし彼が汗水流している姿はそんなに想像がつかない。
図書室の扉を静かに開けて、先ず受付に会釈してから本を返却するか、物色を始める彼が、体育会系というのはちょっとばかし想像ができなかった。窓際に立たれたりすると、あの身長でも儚げに見えてくるから不思議だ。

(意外と吹奏楽部だったり?)

そっちの方が合ってる気がする。クラリネット、フルート…木管も金管も似合う。ヴァイオリンを弾いていても違和感が無い。絵になる。
たった一人の人でここまで考えてしまうのだから、図書委員の仕事量が垣間見える。

自分が入ってるときに、彼が本を借りに来るのがちょっとだけ楽しみだった。

「…お願いします」
「はい」

今日は、どんな本を借りるのだろうか。
パソコン上に出てくるもう見慣れてしまった彼の名前を確認して、はいつものように貸し出しを済ませていった。