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(ああ、また切れちゃった)

図書当番をしていると紙で指を切ったりするが、それ以上には水仕事をすると直ぐにあかぎれができる。冬なんて手袋をしてないと何もしてなくても切れてくる。
本にべたべた付くのが嫌なので、薬を付けたりなどもしない。絆創膏を貼るのも面倒くさい。というか、切れに切れまくって一つ一つに貼っていくのが勿体無い気がするのだ。絆創膏だってタダじゃない。保健室で貰っても良いが、毎回毎回貰うわけにもいかない。
しかも既にこの痛みにも慣れてきている。冬は何もしなくても切れるし、夏でも水仕事をちょっとしたら直ぐに切れる。最近は家事の手伝いもしてなかったし、きちんと手入れをしていたのに、昨日の夜食器を洗ってそのままだったせいか直ぐにこれだ。紙で切った程度の傷だったら指の腹だからあまり目立たないのだが、のあかぎれは大抵指の背、関節部分に多くできる。目立つからそれが嫌だった。

(こうなったら長いんだよなー。切れたのが一個だけだからまあ良いかなあ。薬塗って絆創膏して寝ないと)

しかし正直それが面倒くさい。あんまり大きくないから良いかなあとも思う。
ぼんやり考えていたら、いつものあの子が受付カウンターの方にやって来るのが見えた。意識が直ぐに自分の指から彼が借りる本に向く。今日は何の本を借りるのだろうか。この間はミステリーだった。ここ最近は謎解きものを結構借りている気がする。

「…お願いします」
「はい」

いつも通りに作業を進めて、本を彼に渡そうとする。
見上げるのが苦しいのであんまりマジマジとは顔を見ないけれど、とりあえず髪の毛が凄い綺麗な色と艶なのはよく解る。格好良い人とわざわざ目を合わせようとも思わなかった。キラキラしてる人は遠くから好きなときに眺めるのが一番良い。
期限は1週間後です。いつもの通り、最後にそう言って渡せばそれで終わりだ。彼はぶっきら棒に返事をして本を受け取り、そのまま図書室を出て行く。
いつもは、そうだった。

「…あの」
「はい?」

今回は本を受け取っても足を進めず、カウンターの前から動かなかった。本を片手で持ちながら、何故か恥ずかしそうに俯く。声をかけておいて何だその反応は。告白する前の女の子か。その身長で。
そう思っていたら、制服のポケットから何かを取り出した。手元に差し出されて、「えっ」と呟く。極普通の絆創膏だった。

「…貰ったやつが余ってた…ので、使ってください」
「え、でも私別に怪我とかは…」
「…?……指…」

そう言われてようやっと気付いた。ああ、あかぎれのために、この絆創膏をくれるのか。
普通の、何処にでも売っているような茶色の絆創膏。余ったからとわざわざ制服のポケットに入れておく彼も彼だが、それをこんな自分に差し出すなんて…。面白い子だなあと思った。というか、この指を見られていたなんて、ちょっとばかし恥ずかしい。彼の指は長くて綺麗な形をしている。顔もそうだが、指の肌も荒れることを知らないような綺麗さだった。

「…要らなかったら、捨てても良いです」
「ううん。保健室にでも行って貰おうかと思ってたから、丁度良かったよ。ありがたく使わせていただきます」

彼の手から絆創膏を受け取って、お礼を言いながら笑った。上手く笑えてたら良いなと思う。

「ありがとうね、本庄くん」
「…………………いえ、…」

ちょっとだけ照れていたその顔は、身長の割りにやっぱりまだ1年生なんだなと実感した。
彼の顔は中々に好みかもしれない。目線を受付カウンターに落として、照れているのか視線を少し彷徨わせているその顔を見ながら、はそう思った。