同じ学校に居るのだから、逢いたいとは、思っていたけれど。
せめて見れるだけでも良かった。図書室以外での先輩の生活を見てみたかった。図書室で仕事をして本を読んでいる以外の、先輩の日常を目にすることができれば話せたりできなくても全く構わなかった。そりゃあ、図書室の常連として接してくれて挨拶とか、ちょっとした話とか、…あまつさえ名前とか、そういうことを知ることができれば凄く幸せだけれども。
そこまでの高望みは考えても、ありえるとは思ってないので、せめて先輩の姿をちょっとでも見れたら良いのになあと、最近鷹は考えるようになっていた。
まあ、図書室以外で先輩の姿を見てみたかっただけだった。
そんなことを考えてると都合よく理想のシチュエーションになったりするのだから世の中は不思議だ。
廊下の向かい側から歩いてくるのは、いつも図書室で恋焦がれている先輩その人だった。見間違えでも白昼夢でもない。いつも、見ている先輩だ。
名前も学年も知らない先輩。いつの間にか好きになっていた人。図書委員の彼女。
移動教室なのだろうか、教科書や筆記用具を持って歩いてくる。ああ、静かに自分の鼓動が拍動する。運動した後くらいだったらそれもよく解るけれど、何もしてないのに、彼女の姿を見ただけなのに、こんなにも心臓がうるさい。そこまで速くもないけれど、大きく脈打つ。ちょっとだけ、喉が渇いた。何故か自分の歩みがゆっくりになる。
先輩に、挨拶しても大丈夫だろうか。いや、一応顔見知り?なのだから、多分平気だとは思うけれど。挨拶だけ。挨拶だけでも、してみたい。
おはようございます。こんにちは。…どうも?
どの挨拶が一番良いんだろうか。朝でもないが、今日初めて逢うのだからおはようございますも間違いではない気がする。ああ、もう先輩が近い。
目が、合った。
「おはよう」
「…どう、も」
そう言ってすれ違う。普通の先輩と、同じ。廊下で会ったら挨拶だけしてすれ違う。そう、普通に会う先輩達と、同じ。
でも、それでも、嬉しい。逢えて嬉しい。挨拶できて嬉しい。目が、合った。
ゆっくりだった鷹の足取りは少しだけ速くなる。速く、速く教室に行ってこのニヤケそうな顔をどうにかしたかった。
…図書室以外で見ても、先輩は綺麗だった。
そう思って、鷹は彼女の上履きの色を思い出した。1つ上を示す、その色。ああでも、3年生じゃなくて良かったと思っている。
(2年生への用事は、何かなかったかな)
2年の教室を通ることなんてないから、何かきっかけがないかと考えて、鷹は自分の教室のドアを開けた。