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(あ、そうだ)

鷹は放課後の帰り道、学校を出てから思い出した。

(シャー芯買っておかないと)

ちょうど帝黒学園の帰り道にはコンビニがある。普段は全く寄らないが、今日は寄っておかないと明日困る。
他にガムでも買おうかとも考えながら、帰り道を歩く。大体朝はうちの生徒がごった返してるコンビニだが、この部活が終わってからの時間は人がまだらだった。
久しぶりにそのコンビニに入って、小さな文房具コーナーに行く。文房具にそこまでのこだわりはなかったので、鷹はとりあえずその場にあったもので間に合わせる。その小さい商品を持って店内を歩き始めた。ガムでも買うか、それとも明日用にもうドリンクを買うか。
そう考えてる途中で、心臓が大きく跳ねた。

指定のカバンを持って、いつものように制服で、ドリンクコーナーの前に先輩がいた。

何を買おうか迷っているのか、目線が色々動いてるのは確認できた。見つけた瞬間自分自身の動きが止まって、けれども何も考えずに足が勝手に動いていた。

先輩」
「え?」

驚きながら顔を上げて、自分がいるのを見て「本庄君、お疲れ様」と言われる。
…あ、マネージャーに女子が欲しいって、そう思う理由が何となく解った。

「…お疲れ様です。先輩、委員会の帰りですか?」
「うんそうー。まあコンビニで立ち読みしたりしてたけど」
「ああ」

だから部活で遅くなった自分とはち逢ったのか。
そうして先輩はまたドリンクを真剣に吟味し始める。女子は、紅茶の甘いのとか好きそうだと偏見を勝手に鷹は持っていた。ペットボトルや紙パックの紅茶はどうにも舌が受け付けない鷹からしたら信じられなかった。茶葉の紅茶のほうが絶対美味しいし気分が良い。寧ろガムシロップのような添加物が入ってること丸出しの味は本当に理解できなかった。それだったら安いコーヒーを買うほうがまだ良い。
自分はあとスポーツドリンクでも買っておこうかなと、冷蔵庫のドアを開ける。好きなメーカーの物を一つ取って静かにドアを閉めた。

「あ、部活用?」
「ハイ。明日のでも良いですけど、まあ帰ってから走りこみしたときにでも飲めるし」
「うわー、凄いねえ。甘いから風邪引いたときと運動したときくらいしか飲めないや」
「いや、僕もそうですよ」
「あ、やっぱりそうなんだ」

あと太りやすいって聞いて、ちょっと飲まないようにはしてるかなー、と先輩は続けた。
…そうなのか。寧ろ先輩はダイエットとかしてるのだろうか?気になる年頃というのは理解できるが、だからと言って肉付きの悪い身体は見ていて楽しいものでもないとは思っていた。拒食症なんじゃないかという足は見ていられない。

「…先輩は、何買うんですか?」
「うーん、…いや何を買おうかずっと迷ってる」
「飲み物で?」
「ううん、立ち読みずっとしてたから、何か申し訳なくなって買おうかなあと思ったんだけど、…別に欲しいものないんだよね」

先輩はそう言いながら照れたようにちょっとだけ苦笑する。別にコンビニなんて年中立ち読みしてる人が途絶えないのに、そんなことを思うのか。だが鷹自身本屋でそういったことを思ったことがあった気がする。似たようなものだろう。

結局先輩は小さな菓子を買っていた。
自分はシャー芯とドリンクを買って、外に出る。先に買って出ていた先輩が待っていてくれて、ちょっと嬉しかった。