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帰り道のコンビニで後輩の本庄君に会った。一緒に買い物をして、そのまま駅まで歩いて、乗り換えの駅まで一緒だったから電車も一緒に乗った。
図書室では考えられなかったけれど、意外と話は弾んだ。部活の話、勉強の話、学年の話。あの先生は去年こんな問題を出したとか、結構有意義な時間だったような気もする。そういうことを聞いてきたり、真剣に相槌を打ちながら聞く彼はやはり真面目で勉強ができるのだろう。
部活の話が一番花が咲くかと思ったけれど、違ったのにはちょっとだけビックリした。

日課だから。
日々のトレーニングをそう言う。抑揚のない声で、ただそれが当たり前のことだと、彼はそう言った。親から強制されているようにもそれは取れた。
高みにいるスポーツ選手というのはそういうものなのだろうか。はある時だけを除いてスポーツとは無縁の生活をしているのでよく解らなかった。楽しいのか楽しくないのか、それだけでは判断できない。それ以前に、彼からしたらやはり当たり前のことを当たり前のようにやっているのかもしれない。それでも続けていることで、高みにいる選手だということは理解できた。幼い頃からできる選手として育ってきた彼の考えていることは、自分には絶対解りはしないのだろう。
そこは自分とはステージの違うことだったから、それ以上深くは聞けなかった。話を掘り下げようにもそもそもアメフトの知識がないので無理だった。ポジションだの何だの聞いても、よく解らない。強豪校の話も勿論知らない。バスケだったらちょっと解るのだけれど、関係なさすぎる。
こればっかりはしょうがないかなと思う。

そんなことを考えながら話して、帰宅ラッシュの電車に一緒に乗り込んだ。
…だからラッシュというのは嫌なんだと、は毒づく。

(掴まれない…)

吊革が遠い。掴まれないのはしょうがないから、は諦めて踏ん張るように意気込んだ。ちょっと油断すると直ぐに身体が揺れるので、目の前の後輩君には迷惑をかけたくないところである。

そう思っていたのに、結局カーブで揺れて身体が大きく傾いて、思わず本庄君の腕に掴まってしまった。
そのお陰で他の人には迷惑をかけずに済んで、ちょっとだけ安心する。というか、全く揺らぐことなかった本庄君に感心した。あと何か掴んだ腕が意外と太い。っていうか硬い。

(おお、凄い、やっぱり腕硬い…)

本庄君の足を踏んだりもしたので謝ってみるも、また揺れて今度は本庄君が支えてくれた。支えたときだけ腕に触れられて、体勢が立ち直ると離される。
この目の前の後輩君に比べたら自分の腕の何とたるんでいることか。だからと言って他に触っても良い場所があるかどうかと言われたら、やはり肩か腕くらいしかなかった。腰は流石に勘弁してほしい。本庄君がそんな風に腰に手を回してきたらただのタラシだ。見方が180度変わる。

(凄いなー、細いけどやっぱりスポーツ選手なんだなー)

満員電車だと何故だか話すのが憚られるので、何となく電車に乗っている間はそんなに会話がなかった。変わりにそうやって、彼が男の子でスポーツ選手で、細身に見えるけれど結構ガッシリした体格なんだとずっと考えていた。

こんな風に男の子に近づくことなんて、滅多にない。同年代の男の子が目の前にいて、こんな風に支えてくれていることがちょっとだけ気恥ずかしかった。彼にそんな気がなくても、自分が気にはなる。気にしすぎたら失礼だろうから、お礼を言うだけにしといた。
別に、今回の出来事が嫌だと思わなかったから。