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定期試験3日前になると、帝黒学園では部活ができなくなる。
個人的に前日まであったらかなり困るが、3日前でもちょっと遅いんじゃないかと思っている。それでどうにかできると思えないので、やはりその前から準備はしていないと高校の科目数に付いていけない。トレーニングを欠かす気はないので、両立するなら徹夜だけは避けたかった。できるならもっと勉強するのかもしれないけれど。

(…そもそも徹夜ってしたことないかも)

クラスの男子は中間試験で徹夜しようとしたけど無理だったー!と叫んでいたりするが、鷹は徹夜自体しようと思ったこともないし、したことがない。流石にそんなことをしてトレーニングができると思わないからだ。
別にしなくても今の成績が意地できるならそれで良いかと、自己完結させた。

定期試験3日前、いつものようにアメフト部も試験に備えて練習が休止になった。
朝と夜のトレーニングは常にしているから、学校で勉強できるならしてしまおうと今回鷹は考えていた。先生がいる間は、解らない質問もできて便利だ。図書室なら静かだし、参考書も揃ってる。学校はこういうとき便利だ。自室でも勉強はできるけれど、はかどるときとはかどらないときの差が激しい気がした。解らない問題が出ると暫く手が止まる。出来る限り学校で進めてしまおうと考えて、いつも本を借りるだけの図書室にやって来た。

受験生らしき人がちらほらいるのは見かけたこともあるが、試験前なのかいつもよりも人が多い気がした。
窓際の席が取られていたのは痛い。しょうがないからあまり人目に付かないような席を取ろうと動く。

ちょっとだけ視線を動かして、心臓が大きく動く人物を見つけてしまった。

(…先輩。……あ、先輩も勉強か)

貸し出し受付の、カウンターにいない図書室での先輩を見るのは、初めてかもしれない。
いつもこの場所ではカウンターに座って本を読みながら、来た人の貸し出し受付をしている印象しかない。他の場所でなら、話をしたこともあるけれど。この間の電車での出来事を少し思い出して目元が熱くなった気がした。

ちょっとした緊張からか、軽く喉を鳴らして鷹は先輩の方へ歩き出した。

「…先輩、勉強ですか?」
「ぅわっ、え、あ、本庄君?」

ビックリしたーと漏らす先輩に、すいませんと謝る。

「本庄君も勉強?珍しいね」
「そうですね。静かなのと参考書があるからココでやろうかと思って」

偉いねーと褒められた。…いや、先輩もここで勉強してるのに。

「いや私はただの気分転換。図書室は飲食禁止だから、あんまり普段は使わないんだよね。いつもは食堂か家か…マクドとかでもするけど」
「ああ、なるほど」
「でも静かだから、はかどるときはココが一番はかどるかなー」

軽く笑いながらそういう会話をして、邪魔したら悪いからと席を探そうと思っていたら、先輩から嬉しい言葉を貰った。
…この人、もしかして他の男子にもこうなんじゃないだろうか。とても怖い。そういえば今までクラスの男子とかといたところは見ていないが、どうなんだろうか。けれども、この人からこうやって提案されることはとても嬉しかった。

「本庄君、座るところないなら隣来なよ」
「……良いんですか?」
「良いよー今の時期は席取るのも大変だしね」

私の隣で良いならどうぞどうぞと、隣の席を促された。…自分の心臓は耐えられるだろうか。そんなことは考えずに、舞い上がってしまって二つ返事で了承した。
勉強道具を置いて、先輩の隣に座る。
座ってから、ちょっとだけ後悔した。先輩が、隣にいるのだ。緊張する。心臓が痛いかもしれない。目を合わせることがないからまだ良かった。この間の電車のときよりも遠い気がするけれど、結局そこそこ近いことには変わりない。あれは不可抗力だったわけだし。
けれども、図書室に来て席を勧めたのに勉強しない後輩だと思われたくないから、舞い上がってる頭で勉強をしようととりあえずノートと問題集を開いた。

(…集中、できますように)

何故か勉強するのに神頼みになってしまったことに、鷹は混乱しすぎて気づかなかった。
とりあえずはそこそこ緊張しながらも集中して、本当にそれなりに勉強が進んだから良かったものの、これなら家で勉強したほうがはかどったなと後悔した。

(でも、先輩の横顔は綺麗だった)

後悔しつつも、そんなことを思う余裕はあったようだった。



後から、解らない問題を先輩に聞いてみたら良かったんじゃないかと閃いてしまって、更に後悔した。