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ふっと、意識が浮上した。…寝てしまっていた。やっぱり疲れているみたいだ。
頬杖付いていたから、手首がもの凄い痛い。痺れてるし。首も同じ方向を向いていたから、変な感じだった。

(うあー…試験勉強のノリで自己採点しようと思ったのに意味ないなー…)

気が緩んでしまっている。まあ今日やっと定期試験が終わったからしょうがないのだけれど。
来年は受験生だし、勉強の癖を付けたいのにコレでは意味がない。静かな図書室がチョイスミスだったかもしれない。
まだ少し重たい頭を支えて、何とか目を開けようとする。

(ノートに涎垂らしてないだけマシだよねー…)

家だと突っ伏して寝たりするので、口が開いていたときなんて酷いものだ。ノートが涎でデロデロになったときは女としてどうかと思った。家で良かった。涎が出るのは元気な証拠とは誰の言葉だっただろうか。それは幼児に対しての台詞なのだろうけど。
そんなことを考えて、ふとノートの端を見た。上の隅に書いてある言葉を読んで、思考が止まった。

(……、え、何…)

綺麗な字だった。筆圧のせいか少し薄く見えるその字。
自分の字とは明らかに違う。そもそもノートの上端に文字を書いた記憶もない。
何故か反射的に頭を上げた。寝ぼけていた頭の中も覚めていた。キョロキョロと周りを見回すが、司書の人以外いる様子が見られない。
またノートの文字を見る。…変わらずに同じ場所にその言葉は鎮座していた。
誰かの悪戯だろうか。そんなことも考えるが、知らず顔に熱は集まっていた。頬が熱い。寝ていたからなんて理由じゃない。「コレ」は、一体、誰が。

(………ああ、もう)

その文字を凝視しながら、思い描いてしまった人物が、一人。
綺麗な顔と髪の毛で、細身で長身だけれど筋肉がしっかりあって、それでも儚げな雰囲気をかもし出す、男の子。図書委員の自分よりも読書量の多い後輩君。真面目であのアメフト部の一軍の、歩くかのように跳ぶスポーツマン。

(…本庄君だったら、良いのになあ、なんて)

考えたことが恥ずかしくて、また顔が熱くなった。けれども目を伏せながらずっとその文字を見続ける。
誰だろうか。でも、図書室に来る人で自分が知っている人物はそう多くない。やはり一人しか思い浮かばなかった。彼だったら、嬉しいと思っている自分もいる。

『好きです』

たった4文字しかないのに、その言葉はノートの中でとても存在感を放っていた。