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結局夏休み中、学校に行くこともできずに終わってしまった。

いや、部活もやっていない生徒だったら普通は行かないのが当たり前だけれど、行ってみようかな、見てみたいなと思っていたのに、誰かさんのせいでこんなことになってしまった。だからと言って、体格の良い上に不良一歩手前の幼馴染に突っかかることはできなかった。心の中でぼろ糞に言う程度である。ただのビビリだった。
…まあ、インターハイ初戦で終わってしまった彼らに、かける言葉を見つけることもできなかった。何だかインターハイ終わって行かなくなるのも見捨ててるようで嫌だったので、結局夏休み中は幼馴染の学校のバスケ部でマネージャー業をやってしまったわけである。

長いようで短い夏休みが終わって、学校が始まった。
夏休み中頑張って考えたけれど、あのノートの文字の人が本庄君だったら良いなという考えしかなく、どうしたら良いのかなんて欠片も出てこなかった。自分を好いている人がいるのは解ったけれど、一体どういう行動を取れば良いのかは全く考え付かない。誰なのか解らないのだからしょうがなかった。
つまり、あのノートの文字の主は本庄君じゃない可能性も十二分にあるわけで。

一人で突っ走った考えでもしも本庄君に突撃して違ったら、もう学校に登校できないレベルである。恥ずかしいどころじゃない。委員会辞めればどうにかなるような気もするが、通年の委員会を辞めるなんて聞いたこともない。
そもそも、委員会を辞めて本庄君を見る機会がなくなるのは、嫌だと思ってしまった。

(…あー…つまりは、何にもなかったかのように過ごしているのが一番って感じなんだよねー…)

あいにくミステリーだの謎解き物だの読みはするが、別段それで推理能力が上がるわけではない。にそんな能力も頭脳もなかった。筆跡だけで人が解るわけでもない。図書室のパソコンの履歴で調べれば利用した人は解るかもしれないけれど、貸し出し手続きをしていない場合は結局解りはしない。
墓穴を掘るくらいなら、何もなかったかのように突き通すのが一番であるように思える。現状維持とでも言おうか。
それなら、本庄君を見ていられる位置はそのままでいられる。好きなままで、いられるのだ。

好きなんだと気づいてから直ぐに夏休みに入ってしまったので、正直な話本庄君をもっとしっかり見ていたいという気持ちが強かった。
図書室での彼は儚げで無愛想だけれど、最近は少しずつ話をするようになってきた。もっと色々話してみたいし、彼が部活をやっているところとかももっと見てみたい。
とりあえずは当番のときに頑張って話しかけるしかない。…が、そんなことが自分にできるかは微妙だった。

(いや、うん、とりあえずは頑張ってみないと。先ずは、あー…アメフトの試合、いつあるのか聞いてみようか、な)

…ダダ漏れな気がするけれど、見てみたいのだからしょうがない。アメフトの知識も少しは入れておかなければ。
むしろ、ルールを知りたいから教えてほしいとか?…いやそんな時間があるとは思えない。あ、ルールブックか何か解りやすい本があるか聞いてみよう。それで借りて、解らないところをちょこちょこ聞いてみれば良いんじゃないだろうか。

(…何で今更アメフトのルールとか言われたら、…いや、うん、興味が湧いてとしか言えない…)

こういうのって難しいなと思う。
ああでも、確か前クラスの子が読んでいた雑誌には、多少は解りやすくしないと気づいてもらえないとか、書いてあった気がする。アプローチするならしっかりしないと意味がないとかなんとか。だったような。
あの容姿であの体型、そんでもってスポーツマンな彼だ。モテるに決まってるだろうし、頑張るならそれなりに頑張らないと。

でも、まだ今は見ているだけで良いと思ってしまっている自分も、いた。

(片想いって、本当に楽しいんだな)

新しく学期が始まって、初めての図書当番。その日受付カウンターに座って、片想いを満喫しながら彼が来るのを心待ちにしていた。