28


本庄君が、いや厳密に言うとアメフト部が、府大会を優勝したらしい。
それでも十分凄いと思うが、別に彼はそんな風に思ってはいないみたいだった。

「府大会優勝おめでとう」
「ありがとうございます」
「朝礼に出れるのはやっぱり部長だけなんだ?」
「そうみたいですけど、全国優勝したらスタメン全員上がれるかもしれないですね」
「…全国優勝は射程範囲内なんだ?」
「?ええ」
「凄いね」

当たり前のように全国優勝したら、壇上に上がれるかもしれないと言う彼は流石だと思う。何処からその自信が出てくるのか気になるが、けれども確かにあんな風に跳べるこの子はそこまでの自信が持てるのかもしれない。
府大会程度では、満足できないということか。幼馴染も確かそうだった。男の子は凄いなあとは思う。…いや、正確に言うと幼馴染は府大会2位だったけれど。でも全国優勝を目指して頑張っていた。けれども、幼馴染と違うところが多々あるように見えた。

少しくらいは、喜んでも良いのにと思ったけれど。
でも、それで満足していたらいけないのかもしれない。運動部に入ったことのないにはよく解らなかった。
とりあえず、応援するに越したことはないだろう。当たり障りのないように言葉をかけようと何故だか思った。

「応援してるね、図書室の常連さんだし」
「はい、ありがとうございます。…頑張ります」

そこでほんのりと笑ったから、ああ別に変な心配しなくても良かったかもしれないと、は思った。
笑った顔が見れてラッキーだった。無表情な顔ばかりだから、こういう顔を見れると嬉しくなる。
彼はやはり格好いい顔立ちだ。惚れた欲目ではなく、これは最初から思ってたことだったけれど。

…今更、何て後輩を好きになってしまったのかと思ってしまった。



***



いつものように昼休みが終わる頃、図書室を退出していく本庄君の後ろ姿を見ながらはまた思う。

(…ありえないのかもしれないけどー…、でもやっぱり、本庄君だったらなー)

家で何度も見返したノート。癖でいつも鞄に入れているが、使う気はもう起きなかった。だって勿体無い。というか、何だか見つめてしまってそれ以上ページが進まないのだ。恋する乙女そのものだ。後で思い返すと恥ずかしいのだが、それすらも楽しい。
何度見てもその字が変化することはない。当たり前だった。綺麗な字がずっと鎮座しているだけだ。

これを書いた人は一体どんな気持ちで書いたのだろうか。
本当に、自分を好いて書いてくれたのだろうか。書くだけでも結構勇気が必要なんじゃないかとは思う。しかしどんだけ気配に疎かったんだろうと自分自身で突っ込んだ。そこは起きたほうが良かったのか悪かったのか。
本庄君だったら嬉しいと思う。けれども、もしも別の違う人だったら。

(…まあうん、申し訳ないけど、それはごめんなさいだ)

この文字のお陰で気づいてしまったのだ。いつの間にか図書室の常連から、ランクアップしてしまった男の子の存在を。
本庄君だったら嬉しいと思う。別の人だったら、ごめんなさいと、素直に言おう。けれども、気づかせてくれたから「ありがとう」とは、思っていた。
しかし名乗る気がないのだろうか、書いた人は名前もないし、誰かから何かモーションをかけられてるとも思えない。
…つまりこれは、言うだけで満足とか、そういうものだろうか。別にそれはそれで良いけれど。これ以降何もなかったら、多分それだけの気持ちで告白だったということだろう。
これがこう、回数を重ねられたり、ちょっと気持ち悪い行動取られたりしたら校内でストーカー?と思わざるを得ないけれど。まだこれくらいな、うん、まだ許容範囲というか。

本庄君だったら良いなあと思っているから今この手元にあるノートが大事なだけであって、違う人だったら、…処分するなり、しないとなあとは思った。
それはそれで、寂しいなと、何故だか感じてしまった。