信じられないことに幼馴染の烈ちゃんが帝黒学園に来ていた。
『おう授業終わったか。校門で待ってるさかいさっさと来い』
そう一方的に言って幼馴染からの電話は切れた。意味が解らなかった。授業終わったら電話しろというメールがあったから、正直に従ったらこれだ。…勘弁してくれ!
そう思っていながらも身体は行動してしまう。結局ほっとけないらしい。お人よしで自分が嫌になるが、だが無視していたら逆に自分の身が危ない。労働的な意味で。あのヤンキーに逆らう気はあまり起きなかった。
走っていくのは面倒くさいが、競歩くらいの急ぎで行けば、本当に校門にあの仏頂面の幼馴染がいた。
強面でヤンキーにしか見えないが、身長はあるしどちらかと言えば端整な顔立ちではあるので、ちょっとだけ周りの女の子にキャーキャー言われてた。何かムカついた。その男見た目通り性格も悪いですけどー!?
「、遅い」
「どこがやねん!めっちゃ早いわ!」
「んな問答はええからさっさと職員室案内しいや」
「はあ?」
聞けば、練習試合の申し込みに来たらしい。…え、いやいやいや、何で、顧問は?
「まあ申し込みっちゅーても打ち合わせみたいなもんや。この学校でするさかい設備見るついでやな。だからさっさと案内せんか」
「…本当うざ」
「何や」
「あーはいはい解りました」
嫌々ながらも、校門前でほっとくと教師や警察が来てしまいそうなので、は仕方なく案内を始めた。何で本当にこの男一人で来させたんだあの学校は。あの学校だからかそうですか。他校の女子をマネージャーに使うくらいですからね。そうですよね。
職員室に案内してから話を聞く必要はなく、教室に戻って荷物を纏めて職員室の前で烈ちゃんが出てくるのを待っていた。帰りに一人で校内を歩かれても困る。子どもじゃないんだから一人で帰れるだろうということは解るが、しかしあの男を放しておくことが危ない気がした。喧嘩っ早いからだ。夏のインターハイも結構危なかった。幸いにも今まであの男の喧嘩に巻き込まれたことはないが、傷の手当をしたことはある。
意外とスポーツマンだから、そこまで喧嘩をしているわけではないのも知っている。バレたら出場停止だ。だが今までバレなかったのは正直不思議だった。
そんな男を野放しにしておくのは気が引けた。職員室まで案内してるのはもう見られている。…関係ないとは、言い切れない。
は大きなため息を吐いた。
その直後に職員室のドアが開く。ああ、そこまで長くなくて良かった。
形式的な「失礼しました」を言い、烈ちゃんはバスケ部顧問に頭を下げて職員室の扉を閉めた。その後こちらと目を合わせて、また面倒くさいことを言い出す。
「バスケ部が使おとる体育館まで案内せい」
「は、私が!?」
「お前以外にこの場に誰がおんねん」
「いやいやいや!バスケ部の顧問は!?」
「知らないおっさんと一緒にこんな校内回れるかだあほ」
「はああ!?」
本当に信じられないが、こう言うのが自分の幼馴染だった。何てことだ。もう帰れると思ってたのに。
良いからさっさと案内しろと烈ちゃんは促してくる。ストレスが溜まるのは、こういう瞬間だ。何で!自分が!そう思いながらも案内してしまう自分の人の良さもストレスとイライラの原因だった。畜生、でも逆らえない。
プリプリ怒りながら、烈ちゃんを校舎内から連れ出す。バスケ部が使う体育館はこの馬鹿でかい帝黒の校舎から出ていかないといけない。
逆らえないけれど、言いたいことは言わせてもらう。じゃないとやってられない。
「ほんま信じられん!」
「いい加減うっさいわ」
「普通こういうの顧問がするもんやろ」
「その顧問が忙しい言うから俺が来とるんやろアホやな自分」
「アホはどっちや!何で今の時期まで部活やってるんほんま意味解らん!!勉強しなよ烈ちゃん!」
「しとるわ」
「嘘やろ!どうせ保健体育とか言うんやろ!」
「解っとるやないけ」
「アホか!!」
ああでも知ってた!アホなのは知ってた!バスケ馬鹿なのも知ってた!!もう嫌だ本当この幼馴染…!
そうやって怒りながら、そのまま体育館に向かう。
何でこう帝黒はでかいんだ。幼馴染を案内する時間が長く感じられた。そうだもう少し小さければあの本庄君に逢う回数も増えるかもしれないのに。
そう思って、いや、でもやっぱ今はこの大きさで良いかもしれないと考え直した。
(…こんな幼馴染見られたら、正直嫌だ…)
クラスの人にも見られたくない。あの本庄君には一番見られたくない。こんな男が幼馴染だと言うのはとても嫌だ。何か謝りたくなってくる。
まあ別に彼氏でも何でもないので、見られるのは別段構わないけれど、勘違いされるのが一番嫌だと思った。
こんな男が彼氏と勘違いされたら、本気で嫌だ。ああ、本当にクラスの人や本庄君には見られたくない。
怒りながらもそんなことを考えて、体育館までの道のりを幼馴染と一緒に歩いた。