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どうやら幼馴染が来た日、クラスの誰にもあの男と一緒にいたのを見られてはいないようだった。
見られていたら確実に誰かにそのことを聞かれているか、皆に知られているような気がする。いやでも見られていたけど広められていないのかもしれない。だけれど、あんな柄の悪い他校の男と歩いていたら確実に言いふらされている気がする。
しかも大阪での高校バスケの中では結構有名ではあるのだ。バスケ部に案内したとき結構驚かれていた。まあいきなり豊玉高校のキャプテン(今は一応元だけど)が来たら普通は驚くかもしれない。顔怖いし。

しかしもうあんなことはごめんこうむるところである。長期休暇中は確かに暇だし身体を動かすという目的と若干拉致されているということで手伝ってはいるが、学校生活があるときは勘弁だ。そもそも生活環境が違いすぎる男と一緒にいるのは正直疲れる。相手は配慮もしてくれないし。
2週間後の日曜日に練習試合という話は聞けた。そのときは何が何でも絶対来ないようにしようと思った。無理だ絶対嫌だ。言われても来たくない。誰かに見られたら本当に嫌だ死にたくなる。拉致されないように友達と用事を作りたいところだ。

何で幼馴染のことでこんなにも悩んでいるのかと、はため息を吐いた。あんまり今読んでいる本の内容が入ってこないしページが進まない。
ああ嫌だ。もう読まずにボーっと過ごしていようか。そう思っていたら図書室のドアが開いた。
顔を上げると、待ち望んでいた人が入ってきた。あ、と気づいて知らず気分が浮上した。

(…うん、やばい今日も格好良いなあ)

年下には思えない。本庄鷹君は今日も綺麗で格好良い。
いつものように受付カウンターに会釈をされる。本庄君を見られたことと、いつものその律儀さに微笑みながらも会釈し返した。ああ、幼馴染はクソみたいな男だがこの後輩君は本当に素敵だ。そりゃ笑顔にもなる。
そのまま本庄君はカウンターまで来て、返却手続きを行った。

「はい、ありがとうございました。…これ、どうだった?」
「…正直に言っていいですか」
「うん」
「ちょっと、というか、…凄く微妙でした…。結構書店で騒がれてるから期待してたんですが、話の進みが上手く行き過ぎてて微妙で…。好きな人もいるとは思いますけど、僕はあんまり好きになれない結末でした」
「これ、バッドエンド?」
「……いえ、多分ストーリー的にはハッピーエンドです」
「えー、悩むようなオチってことでしょー…」
「結構途中途中が、超展開でしたよ」
「そっかー。うーん、どうしよう…」

借りようかとも思っていたが、この子にそう言われるくらいとは悩みどころである。だが本屋で騒がれている本くらいは目を通しておきたいという変な図書委員のプライドもある。
あるけれど、だが個人的にはハッピーエンドな物語が読みたい。良いじゃないか物語の中くらい幸せな結末で。そう思う。
まあ借りたい本のリストに入れておくくらいは構わないだろう。気が向いたら読もう。今は別のシリーズ物を読んでいる最中ではあるし。

「うん、まあ次予約入ってたから、その後気が向いたら読んでみる。感想ありがとうね」
「いいえ」

来始めた頃は無愛想でぶっきら棒だったのに、今じゃこんな風に話し合える仲だ。それが嬉しい。
最後の受け答えで彼が少し笑ってくれたのが、堪らなく幸せな気持ちになれた。落ち込んでいた気分が最高潮にまで浮上したのを、は確かに感じた。
格好良かった。綺麗だった。陳腐な言葉しか出てこないけれど、変な言い回しを考えられないくらい、彼の笑顔に嬉しいと感じた。
微笑と言う程度の笑い方だったけれど、それだけで確かには頬が熱くなるくらいに気持ちが舞い上がっていた。