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中間試験が終わって数日。
ようやく面倒くさい試験がとりあえず終わったというのに、早速国語で宿題を出された。

(まあ今回は寧ろありがとうって言えるくらいだけど)

大会中だからあんまり数が多いとイライラしてくるが、今回のこの宿題は全く構わない。
先輩に逢う口実ができる。



「百人一首のレポート?あー、あったねーそんなの」

うちもやったやった、そう先輩は続けた。やっぱり毎年なのかこの宿題は。

「中間後なのに宿題かよ!って皆で突っ込んだなー」
「誰だって思いますよ多分」
「だよねえ」

いつものように図書室で、先輩と話す。昼休み中は特に人が多いというわけでもないので、あまり声量は気にしていなかった。勉強している人が少ないというのもあるかもしれない。
国語の課題は、百人一首のレポート。一首を選んで、調べて纏めてくるという至極普通の内容だった。百首の中から一つを選んで、選んだ理由まで書けというのだから中々面倒くさくはあるのだけれど。
通常ならちょっと面倒くさいと鷹も思うが、先輩が前に百人一首の漫画を読んでいたり、…あの中途半端な告白を、するまでに至った理由も百人一首絡みだったから、これは勉強するチャンスだし、先輩と話す口実ができたと一人浮かれてしまった。表には出さないけれど。

本当は宿題を出されたのは2日前だった。
その日のうちに図書室に来て何となくレポートに使えそうな本は物色していたが、ここはやはり先輩に助言を聞くのが一番色々良い気がしたので、いつものように昼休みに来て、先輩が当番でカウンターにいるのを確認してから話しかけた次第だった。
先輩を可愛いと思ったあの日から、何故だかいつも先輩が可愛く見えてくるのだからちょっと不思議だった。今日の先輩も可愛い。

「どんなのが良い?この間見てた漫画もあるし、色々細かく載ってるのもあるし」
「そうですね…先輩は、何見て書いたんですか?」
「えー、何だったかなあ。教科書と参考書見て、あー、作者のことに関しては借りたかな」

記憶が曖昧みたいだった。こればっかりはしょうがないかもしれない。何せ一年前のことだ。
口実ができれば良いだけであって、正直鷹は借りる本がどんなのであろうと構わなかった。薦めてくれる先輩には悪いのだけれど。しかし借りた本を使ってレポートは仕上げるつもりなので、無駄ではない。

「…あ、っていうか、多分まだプリント残ってる気がする。何かね、点数良かった人のは印刷して配られたりしたから、それ持ってこようか?どうせもう使わないしノートも取ってあるから見る?」
「良いんですか?」
「うん。良くなきゃ言わない」
「…じゃ、あ」

お言葉に甘えて、なんて大人びて鷹は言ってみた。
何というか、好きな人が自分のために何かしてくれるのって、嬉しい。何だろうこれ、自分こんなことで幸せになっていて良いのだろうか。何とお手軽な幸せなんだ。大丈夫か。

「アメフト部って、お休みの日あるの?」
「え…丁度明日は休みの日ですけど…」
「じゃあ明日の放課後とか、図書室に来てもらえればプリントと一緒に本も探して渡すよ」

それから約束した次の日の放課後まで、鷹の心臓は絞られるように痛かったけれど、それでも不思議な高揚感で満たされていた。