評議会が、思ってたよりも長引いた。
試合相手のビデオを見るところから始まるのはしょうがないけれど、何でこんなにも長引くのか。どうせ一軍から二軍程度しか出れないというのに。
先輩が図書室で待っているのに、何でこんなにもどうでも良いようなことで時間を食わされているのか。
どうせ、自分よりも跳べる選手がいるとも思えないし、大和を止められる人間も抜けるようなランナーもいるとは思えない。うちの選手たちに太刀打ちできるような、そんな高校チームがあるとは、考えられない。そんなことがあったら、多分それは悪夢と呼ぶのに相応しいとは思う。
けれども、そんなこと、ありえるはずもない。
やるだけ無駄なのに、何でこんなことをしているのか鷹は本気で理解できなかった。やるなら出るけれど別に本気で参加しているわけでもない。借りた本を読み、先輩のことを想っていた。
口が悪いが、早く終われといつも以上に強く思っていた。
終わって直ぐに部屋を出て、早足で図書室へ向かう。…いや、というか、不味い。図書室が終わる時間になってしまっている。
(…どうしよう)
かなり不味いと思うが、行かないよりは行ったほうが良い。先輩が待っていてもいなくても、行ってみないと解らない。
閉まっていたら諦めて帰るしかなかった。
邪魔な荷物を持ちながら、急いだ。
(……閉まって、る)
閉館の文字が印刷されているプレートが、無情にも図書室のドアにかけられている。ああ、もう、やってしまった。
初めてこんなにも部活を恨んだ。どうしてくれるんだ。怒ってもしょうがないし、自分自身のせいなのにどうしたら良いのか解らない。先輩が、折角、作ってくれた時間だったのに。自分が不甲斐ない気がした。
ため息をつきながら、顔が下を向く。どんな顔をして次に逢ったら良いんだ。
そこで目線を上げて、気づいた。扉は閉まっているが明かりはついている。
(…司書さん…は、まだいるのかな)
先輩は、いないのだろうか。
思ったら直ぐに行動していた。鷹は学校の指定鞄を少しだけ強めに握って、静かに図書室のドアに手をかけて、ゆっくりと開けた。
もしかしたらと思ってやったが、開いたことに少しだけ驚いたがそのまま半分くらいまで開けて、中を見た。
「あ」
「え、あ、本庄君、お疲れ様ー」
いつものように受付に先輩は座っていて、声を出した鷹に気づいて顔を上げた。
笑顔でそんな風に言われたら、誰だって嬉しいと思う。何故だか顔が熱くなった。
「す、すいません…ええと、さっき終わって、」
「うん、良いよ良いよ。こっちもさっき閉めただけだから。…っていうか、ごめん閉館してると思って入り辛かったでしょ?ごめんね、一応やっとかないと先生とかに何か言われそうだからさ」
「いえ、でも良いんですか?」
「ん?閉館時間から下校時間までは図書委員が仕事する時間なの。まあすることなんてないから、普通は閉めたら直ぐに帰るんだけどさ、今日は特別。仕事もないけど、本庄君には渡すものあるからね」
ニコニコ笑いながら、先輩はそう言って受付カウンターから出てくる。
間抜けな顔から、鷹は自分の顔がどんどん熱くなっていくのを感じた。急いで来たせいなんて、そんなことだけじゃなく。
何でこんなにも、先輩は優しいのか。
「下校時間になったら、司書さんが一応来るんだけどね。それまでは大丈夫だから」
「…何か、すいません…」
「え、でも私から誘ったしね」
嬉しいけれど、申し訳なく感じて鷹は謝るが、それすらもやんわり包まれた。もしもこれで何か言われたら先輩が怒られるだろうに。
先輩はやっぱり優しい。あと今日も可愛い。
好きなんだと認識するのが、こんなにも辛いとは思わなかった。あんな彼氏と一緒にいるところを見なければ良かったと何回も思った。
とても辛いのに、今は凄く幸せだった。先輩が、自分に優しくしてくれるのが堪らなく嬉しくてしょうがなかった。
こんなにも辛いのに、それでも気づいてほしいと思うなんて、自分は結構ワガママなのだと先輩を好きになってから知った。