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先輩が司書と話している間、ずっと目に映っていたノートに視線を送った。
多分、あのときのノートだと、予想する。
横目で先輩が司書の人と書庫に入っていくのが見える。課題のことを考える振りをして、全然考えられなかった。右から左とはこのことだ。ノートのことしか考えてなかった。
後悔している中、今見えるあのノートは何故だか少しだけ輝いて見える。ただの自己満足で書いたもので、今したいこともやっぱり自己満足の塊だった。
先輩が出てこないのを横目で確認しながら、鷹は勝手に先輩のノートを手に取る。
多分、あのときの物と、一緒だと思うのだけれど。違っていたらどうしよう、とも思ったが、それはそれで別に不都合はないのだから良いかと自己完結した。寧ろ件のノートであってほしかった。祈りながらパラパラとノートを捲る。
同じノートで、同じ場所に、自分の字が見えた。
見えた瞬間心臓が一回大きく鳴った気がした。ああ、やっぱりこのノートだった。
何でこのノートをこの場所に持ってきていたのかも考えたけれど、このノートがこの場所にあって良かったと思っている気持ちが大きかった。
ノートにはあれから使われた形跡がなかった。ページは進んでいないし、自分の字が消されていることもない。あのとき、自分が想いを書いたままの、状態だった。
(…気づいてほしいって、思うなんて)
自分だと気づいてほしい。知ってほしい。自分が先輩を好きなことを。彼氏がいても、知ってほしかった。
苦しかった。ノートを見つめて鷹はまた、思い直す。
自分のシャーペンを握り締めて、前回書いた文字の下に、続きを書く。とは言っても、自分だと解るように付け足すだけだった。
『好きです』の一言の後に、『本庄鷹』と書き加えて、ノートを閉じて元の位置に戻した。
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