「…き、づいて、たんですか…」
「うん」
だって毎日見てたし。
そう続けられて鷹は死ぬんじゃないかと思うくらい頭に血が昇った。なん、先輩は、今、何て?毎日って言った?
「昨日ね、寝る前に開いたら、名前書いてあって、…嬉しくて」
「嬉し…、え?」
「嬉しかったの」
やっぱり本庄君だった、と先輩は本を持ちながら、あの可愛い笑顔で、笑った。
…やっぱり、って。やっぱりって、何だ。どういうことなんだ。自分は一体何を言ったら良いのか。もう本当にどうしたら良いのか解らない。とりあえずこんなときでも先輩は可愛いかった。どういうことだ。
「ええと、あのね」
「っ、はい、」
「アレ、最初に書かれてたときにですね、」
「…は、ぃ」
何故だか二人とも敬語になっているのに本人たちが気づいていない。
鷹は緊張と動悸で頭は上手く動かなかったし、もしかしたらこれは良い方向に行く流れではないかと都合の良いように考えている最中だった。ああでも、先輩が顔真っ赤にして自分を見ているのは凄い可愛いというか、これは一体何なのだろうかもしかして夢?そんなまさかと、一人で考えては突っ込んでいた。
まさかこんな展開になるとは思ってもいなかった。意外と恋愛偏差値は低い鷹は、先輩に言わせるでなくきちんと告白し直して付き合ってくださいと言うとか、もういっそ抱きしめてしまえという考えすらあまり出てこない。
だって先輩が何か可愛い顔で話してくれてる。
「書かれてたとき、最初に、本庄君だったら、良いなあって、思って」
「っ、え、あの、」
「誰だろうって、ずっと思ってた。…やっぱり本庄君だったのが、昨日嬉しくて…、……え、あの、本庄君?」
耐え切れなくなって、鷹は先輩から大きく顔を逸らしてしまった。顔に手を当てて、それでも誤魔化しきれないのが解っていながら。
真っ赤になった顔を、思わず逸らしてしまった。
先輩に呼びかけられたけれど、鷹はそれどころじゃなかった。顔が熱すぎる。どうしようコレ。
とりあえず顔を手で覆って先輩から逸らしたけれど、だからと言ってどうにかなったわけではなく。というか不自然すぎるし多分赤いのはバレバレだろう。
「本庄君、」
「…ぁの、すみません…」
一人で赤くなって謝って、それでも先輩が気になってしまってチラリと、目線を隣へ向ける。
先輩が、やっぱり可愛らしい顔で、赤くなりながらも笑っていてくれたから、鷹は顔が赤いのも忘れて先輩の方へ顔を全部向けてしまった。思わず顔を覆っていた手すらも離れてしまう。
その直ぐ後、先輩がくすくす笑い始めた。
「はは。本庄君、真っ赤」
「…っ、…先輩、も…真っ赤…です、よ」
「うん。あはは」
先輩がそのままくすくす笑い続けて、鷹は居心地が多少悪くなる。そりゃ、確かに自分の顔が真っ赤なのは理解しているし、何とも格好がつかないけれども。
別に、幸せだから良い…のかもしれない。居心地はとても悪いけれど。そわそわする。
そうやって感じて、鷹は恥ずかしい気持ちから段々落ち着いてきたのか、微笑ましい気持ちになってきた。
こうやって、自分の気持ちを好きな人と共有できるのは、もの凄い確率で嬉しいことだなと、思った。
そこまで考えられるくらい落ち着いてきて、先輩を好きになってからずっとずっと、気になっていたことを、今この場でようやく聞こうと口を開いた。
「あの、先輩。……先輩の、名前を、教えてください」
「…は?」
「……名字しか、知らないんです」
そうぶっきら棒に答えると、先輩の顔には呆れたような驚いた表情が浮かんだ。だから今まで聞くに聞けなかったのに。言い出しにくかったことだが、それでも今聞かなければ多分もっと聞きにくくなるし、それ以上に失礼になってしまう。
好きな人の、フルネームくらい、知っていたい。
両想いになれたのなら、やっぱり当然だと、思う。
「…………ぷっ」
「……」
「あはは!ごめんごめん、そんな顔しないでよ」
笑われてしまって、鷹は無意識のうちに拗ねたような顔になってしまった。いや、拗ねるのはお門違いのようにも思うけれど、しょうがない。本当は、もの凄くこんなこと聞きたくなかった。
ちょっとだけ拗ねながら居心地悪く感じていたけれど、今まで何度も思ってきた、可愛らしい笑顔で、先輩は笑ってくれた。
そのままの笑顔で、先輩は続きを口にした。
「、…です。……その、よろしくね」
目元が熱くなる。今また、自分の顔は赤くなっているのだろうけれど、今度はもう背けられなかった。
知っているのだろうけれど、先輩のことを真っ直ぐ見て、鷹は今まで生きてきた中で一番しっかりと、自分のフルネームを彼女に伝えた。