いつもいつも先輩は綺麗で可愛いと思っている。これは付き合う前からずっと思ってることだった。盲目と言うのだろうか、欲目と言うのだろうか。他にも綺麗で可愛らしい人はたくさんいるのだろうが、鷹の目で見て一番綺麗で可愛いと思っているのは先輩のだった。
いつも綺麗で可愛いと思っている。ただ今日の先輩は、そのいつもよりも綺麗だ。
「……」
「?? 鷹くんどうかした?」
「いえ……」
「……?」
何かが違うのだが、何が違うのかが解らない。
マジマジと見てしまう。ただただ、いつもより綺麗で可愛らしい。
「……何か、今日いつもと違います」
「え?」
「何だろう、いつもよりも綺麗です」
「へあっ」
面白い声を上げる先輩を、またマジマジと見る。
化粧だろうか?ただ姉のようにガッツリしているわけではないみたいなので、何が違うのかよく解らなかった。ただ何となく違うのは解る。どこがどうなのか解らないのが何故か癪だった。口元…は違う気がする。そこまで色が乗っている感じはなかった。目元?確かに少し色が乗っているが、それでここまで変わるのだろうか。帝黒学園は私立なので、あまりにも化粧をしっかりすると流石に指導が入る。そんなに解りやすく目元を化粧している感じではなかった。何が違うのかさっぱり解らず、姉の素顔と化粧姿を思い浮かべるがあれは変わり過ぎてて逆に怖く感じる。
化粧をしてて綺麗になってるのか自分の目も信じられなくなってきた。何せ片想いの頃からずっと綺麗で可愛いと思っている上に、ほぼ一目惚れなので客観的に見れているかは少しばかり自信がない。そこで「あ、」と思う。
「何か違う気がするんですけど、何だろう……肌が綺麗……?」
「け、化粧を、ちょっとしまして」
「あ、やっぱり」
「に、似合っ、……ちゃんと、できてる?」
「はい。――綺麗です」
「ひい」
「何で褒めたのにそんな反応なんですか」
素直に思ったことを言ったのに、引いた声を出されてちょっと悲しくなる。
別に化粧をしていなくても綺麗で可愛いと思っていたが、薄く化粧をしたら更に綺麗で可愛くなった。化粧凄い。
引いた声を出されはしたが、先輩が照れているのは何となく解った。こんなに薄く化粧をするだけで変わるのだからそりゃあ姉の化粧があんなにも変わるのは当たり前なのかもしれない。凄い時間と道具がかかっているのは知っているが、マジマジと見たことはない。
「姉が化粧道具凄い持ってるんですけど」
「CAさんだもんね」
「はい。……でも姉の化粧は変わり過ぎて怖いんですよね」
「あ~~~」
「さんは化粧しても、しなくても、綺麗です」
「うわタラシ発言だ…」
「ええ……」
何か今日の先輩辛辣では?
片想いのときと違って、ある程度言葉にするようになったのにその反応は何だか寂しい。お世辞だとでも思っているのだろうか。こんなこと言うのは先輩が初めてだというのに。
「……化粧をね、初めてしたの」
「え、そうなんですか」
「友達が貸してくれたんだけど、先生に見つかったら困るし本当薄くね。……ちょっとは、変わった、よね」
「はい。綺麗ですよ」
「……鷹くん口が上手いね……」
「えぇ……(褒めたのに……)」
「…………、鷹くんと選んだ服に、似合う化粧、頑張るね」
先輩はやっぱり綺麗で可愛いんだなと、鷹は何度も思っていることをその日そのとき改めてまた思った。
照れてるだけだったようなので、もっと言葉にしようと決意した。